絵本の選び方とは 絵本専門店の代表が解説

子どもに良い絵本を読んでほしい。そう考えている方は多いでしょう。しかし、本屋に行ってみると何百種類と並んでおり、どれを選べば良いか迷ってしまうものです。そこで、ここでは良い絵本の基準をいくつかご紹介します。

「古典」を選ぶ

『千と千尋の神隠し』『となりのトトロ』『ライオンキング』『トイ・ストーリー』。いくつか名作のアニメ映画を挙げてみましたが、これらに共通するのは全て20~30年前ほどの作品ということです。良い作品は時代や世代を超えて愛されます。どの業界にも、「古典」は存在するものです。

絵本にも同様のことがいえます。児童文学の創作や研究に携わり、財団法人東京子ども図書館の名誉理事長でもあった松岡享子さんは、著書『えほんのせかい こどものせかい』(文春文庫)にて「すぐれた絵本というのは、他の芸術作品の場合におけると同様、より長く生命を保ちつづけた絵本、より多くの子どもたちに愛されてきた絵本ということになると思います」と述べています。

特に、絵本は古典とされるものが多くあります。裏表紙をめくってみて、何年にも渡って版を重ねてきたものは良い絵本といえるのではないでしょうか。ご自身の子ども時代を振り返って、読んできた絵本を探してみるのも良いでしょう。

しかし、「鬼滅の刃」のように優れた作品はどの時代にも生まれるものです。古典を押さえた上で、新作を親子で楽しんでみることも、もちろんおすすめです。

絵と文章に矛盾がない

絵と文章に矛盾がないことも、良い絵本を選ぶ際の一つの基準となります。文章では鳥が出ているのに、絵に鳥は表れていない。このような絵本を見かけることがあります。

絵本の翻訳や制作にも携わった児童文学研究者の瀬田貞二さんは、著書『絵本論―瀬田貞二 子どもの本評論集―』で、子どもは絵本を見る際に現実的に意味を見出すと指摘した上で「子どもの見方が正しい点は、絵本の絵が、あくまで物語の動きに同化していかなければならないことをしっかりと知っているところです」と述べています(大人は絵本に芸術性を見出すとも述べており、その視点も必要だとしています)。絵と文章が一致していることで、子どもは安心して次のページをめくることができるのです。

同時に、絵だけ、または文章だけを見て内容を十分に理解できるというのも優れた絵本の特徴です。絵本を選ぶ際は、絵と文章に注目してみましょう。

展開が繰り返されている

子どもは繰り返しを好む傾向にあります。絵本の読み聞かせをすると、何度も同じ絵本を読むようせがまれた経験を持つ方は多いでしょう。絵本も展開が繰り返されているものを選ぶと良いでしょう。

しかし、繰り返しに変化があることも重要です。『三びきのやぎのがらがらどん』(福音館書店)は、3匹のヤギが橋を渡る物語で、橋の下に潜む怪物「トロル」と同じやり取りを繰り返します。ヤギを食べようとするトロルから最初の2匹は何とか逃げ出すのですが、最後のヤギは勇敢に立ち向かい、劇的なクライマックスを迎えます。子どもは繰り返しにより緊張感を高め、最後にすかっとした気持ちになるのではないでしょうか。

七五調は子どもも心地良い

七五調は、日本人ならば誰もが心地良いと感じる言葉のリズムでしょう。子どもも例外ではありません。筑波大付属小学校国語科教諭の白坂洋一さんの著書『子どもを読書好きにするために親ができること』(小学館)のなかで、学校の校歌には七五調が多用されていることを指摘しています。誰もが知っている童謡の『桃太郎』も、歌詞は七五調です。また、絵本の『おおきなかぶ』(福音館書店)で有名な「うんとこしょ どっこいしょ それでもかぶはぬけません」も七五調であることがわかります。

絵本を選ぶ際には、言葉のリズムにも注目してみましょう。

動物や乗り物が出てくる絵本の選び方

絵本には、動物や乗り物がたくさん出てきます。子どもにとっては、人が物語の登場人物になるよりも感情移入がしやすいといえるでしょう。

しかし、動物や乗り物が出てくる絵本を選ぶ際にも押さえておいてほしいポイントがあります。それは、登場する動物・乗り物の特徴を生かしているかということです。登場する動物は単に人のマネをしているだけではないでしょうか。世界的に読まれているピーターラビットはうさぎが主人公ですが、うさぎとしての特徴を生かしたまま物語が進められています。

先ほど取り上げた瀬田貞二さんの著書の中にも、「やはり狐なら狐にその特質があって、話が運んだほうがおもしろいことは申すまでもありません」との指摘があります。数多くの動物・乗り物絵本の中から選ぶ際の一つの基準となるでしょう。

親子で一緒に楽しめる絵本が良い絵本

ここまで、絵本を選ぶ際のポイントをいくつかご紹介してきました。見るべきポイントはありますが、最終的には「親子で楽しめる絵本」というのが良い絵本だと考えています。今回ご紹介したポイントを参考にしていただき、親子で楽しめる良い絵本に出会っていただけたらと思います。

産経新聞社で事件取材や行政取材を担当。同社退社後、リクルートキャリア入社。新卒採用媒体リクナビの営業担当を務める。その後、コンテンツマーケティングエージェンシーのクマベイスに入社。2022年12月に絵本屋Hottoを立ち上げる。

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